前回の続き、Hさんからのご質問の2番について
話を進めます。
その前に、今一度質問の内容を確認しますと
②マリー・アントワネットのフランス宮廷における侍女は?
ランバール公爵夫人やカンパン夫人、ドラトゥールデュパン夫人、ドサン伯爵夫人が有名ですが
もし他にご存知の方がいたら教えて頂けないでしょうか?
また身分の高くない侍女については、名前など、やはりわからないでしょうか?
ということでしたね。
前回は『王室年鑑』に掲載されている
マリー・アントワネットの王太子妃時代、王妃時代の
それぞれの侍女の名前をピックアップしてご紹介しました。
しかし、そこには記載されていない
かの有名なカンパン夫人や
他にもマリー・アントワネットの伝記本にちょこっと登場するような
侍女もいます。
今日はその辺の補足をしておきます。
まず、そもそも『侍女』という日本語ですが
大辞林で調べると
『身分の高い人に仕え、身の回りの世話をする女。腰元。』
と出てきます。
このように、日本では『侍女』という言葉を
とても大まかな意味で使うため
マリー・アントワネットのすぐ傍で世話をする高位女官も
マリー・アントワネットに直接会ったり会話したりすることもない
例えば王妃の下着などを、専用の場所にて
ひたすら洗濯するだけの女も
『マリー・アントワネットの侍女』で括れてしまうわけです。
前回ご紹介した侍女たち、
『王室年鑑』に名前の載っている侍女たちというのは
いわゆる高位官職に従事している侍女たちで
全員、侯爵夫人だの、伯爵夫人だのといった
爵位を持つ貴族夫人であり
『召使い』的な意味合いの侍女とは
全く違います。
では、マリー・アントワネットの身近にいて
王妃の朗読係でもあり、第一侍女とよく訳されているカンパン夫人は
どうして年鑑に名前が無いのでしょう?
彼女の役職は、『La première femme de chambre de la reine』と言って
『王妃の部屋付き第一侍女』という意味合いになります。
(『王妃の部屋付き侍女』たちの中で長にあたる地位)
年鑑に名のある『Dame d'honneur』や『Dame d'atours』などとの役職の違いは
はっきりと説明されているものは見つからなかったのですが
役職名や職務内容からして
おそらく、年鑑に掲載されている役職の侍女たちは
王妃(王太子妃)の全てのことに関与する侍女たちで
言うなれば『王妃(王太子妃)付き侍女』。
それに対して『王妃の部屋付き侍女』というのは
その名の通り、王妃の居殿内でのことだけに
関与する侍女なのではないかと思います。
例えば、『王妃の着替えの儀式』をとって見ると
王妃の肌着やドレスなどの準備をするのは
『王妃の部屋付き侍女』たちで
実際に王妃に衣服を着せるのは
『王妃付き侍女』
と決められています。
そして王妃が居殿の外で何かをする場合は
『王妃付き侍女』が付き添うわけです。
というわけで、日本語で『侍女』と一口に言っても
フランス宮廷の中では、このように多種多様に役目が分かれていたため
年鑑に名前を載せてもらえるのは
ごくごく上層部の侍女たちだけだったようです。
ご質問にある
「身分の高くない侍女については、名前など、やはりわからないでしょうか?」
については、何かよっぽど別に有名になる要素があった侍女でもなければ
残念ながら、全ての侍女の名前を知ることは、まず無理なのではないかと思います。
(『侍女年鑑』なんてものでもあれば、わかったかもしれないですけどね^^;)
因みに、あと私が名前を思いつく侍女と言えば
ノアイユ夫人やコッセ夫人と共に
王妃に君臨したマリー・アントワネットから解雇をいい渡された
ムーシ夫人、マルサン夫人。
また、もっと後に、国王一家がチュイルリー宮殿から国外逃亡を試みた日
ロシェ夫人に扮して宮殿から脱出する王妃の着替えを手伝った
チュイルリー宮で最も忠実であった侍女、ティエボー夫人でしょうか。
ではでは、次回は『Hさんのご質問③』です!